【保線作業員が足りない!】JR西日本が近畿圏で終電時刻繰り上げる(早める)理由は?
JR西日本は先日の定例社長会見で、「近畿圏の終電の時刻を繰り上げる(早める)方向で検討している」ことを明らかにした。近畿圏(「アーバンネットワーク」とも称する)におけるJR西日本の利用者数は全体では決して減少しているわけではない。それなのに「終電時刻を早くする」と言う事実上の”減便ダイヤ”にする本当の理由は何か?この事はJR西日本に限らず、JR東海、JR東日本等の他社でも起り得る話である。すでにJR西日本では閑散線区(ローカル線)では平成の頭から、JR北海道も2019年10月から昼間の一部時間帯に列車の運行を完全に停止している事態になっている。具体的にはどういう事か?
もくじ
★2019年10月のJR西日本社長会見の概要
↑今回の記事の核心となる内容は、「2環境変化に伴う深夜帯のダイヤ見直しを検討」である。”JR用語”であるが「見直し」と言う言葉の使い方は、利用者(お客)にとってはデメリットな事(不便になる事)が生じる事を意味する。詳細はリンクページに譲るので、下記に概要を簡単にまとめた。
- 線路の保線作業(メンテナンス作業)は主に深夜に行う。10年前と比べて働く人数が減少している。少ない人数で作業する必要があるため、仕事休みの日が少なく、新規で働きたい人が集まらない
- マクラギは木製→コンクリート製に変更、架線も新しいタイプに変更する事で、日頃からの維持管理の軽減に努めている。工事作業で使用する道具はなるべく自動化、少人数で簡単に作業できるタイプに変更
- 2013年と2018年を比較すると、17~20時台の利用が増えているが、21~25時台にかけては約10%程度利用が減っている。実際の利用状況を見れば夜遅い時間帯の列車本数を減らしても良い状況になっている
- 仮に大阪駅発の終電を30分早くすると、深夜から早朝に行う保線作業が約10%年間作業日数を減らす事が出来るため、その分作業員の仕事休み日数を増やせる
- 2021年春ダイヤ改正から終電を繰り上げる(早める)事を検討しているが、終電間際で接続する新幹線や私鉄とも調整が必要。
鉄道は利用者数=本数がそのまま反映される。21時以降の客数が減少しているのであれば、本数の削減や減車(両数を減らす)事をやっても良い状況で、民間企業であるJR西日本としては当然の経営判断である。
【カギを握るのはJR東海?】JR東日本が東京周辺で2021年3月ダイヤ改正で30分終電繰り上げる理由は?具体的な終電時刻は何時になるのか?(2020年9月7日当ブログ)
↑JR東日本(東京周辺)も終電時刻を繰り上げる。この事については上記ブログで詳しく書いた。参照されたい。
★保線作業の実際

↑マクラギを木製→コンクリート製に取り換える場合。昔は何人も集まって、全員でレールとマクラギを固定したボルト(ねじ)を外して、全員で50~60キログラムもある重たいレールを少し浮かせて、バラスト(線路に敷く石)をほじって、やっと重くて古いバラストを出す事が出来る。そこに新しいマクラギを入れる作業を上記とは逆の手順でやっていた。しかし、これでは「人手」がとにかく必要。そこでJR西日本をはじめ鉄道各社は、写真のようにパワーショベル等の工作機器を使い少ない人数でマクラギ取り換え工事を実施。写真は金沢総合車両所(金サワ)で実演公開した時の様子だが、3~5人いれば出来る作業だ。保線作業は近畿圏などの都市部では、終電から初電までの時間が概ね4~5時間しかないため、一晩で出来る距離は短い。これをコツコツ毎日繰り返して、何年も時間をかけて新しい設備に更新しているのが実際である。

↑線路の路盤を整備するのがマルチタイタンパ―(マルタイ)である。主要な駅の側線に止められてあることが多く、終電後に近隣の線路整備に使われる。JR東日本の国府津車両センターで聴いた話だが、一晩でマルタイが作業できる距離は800~1000メートル程度だと言う。恐らくJR西日本も作業できる距離に大きな誤差はなかろう。マルタイが導入される前はやはり「人力」で、マクラギに沿うように前後4人程度(合計8人程度)が並んで、掛け声入れながら一斉にスコップを持って、バラストを掘ったり固めたりした。マルタイよりも作業できる距離が極端に短く、やはりこの分野でも多くの人出が必要だ。マルタイになってからは、運転士が1~2人、作業員(バラストを掘ったり固めたりする装置を操作する)が1~2人、その他見張り要員等を含めても5人居れば出来てしまう作業だ。
★木製マクラギとコンクリート製マクラギとは?

↑木製マクラギの例。長年風雨にさらされると腐食する。レールをしっかりと固定できない可能性が出てくる。軌道変異(レールの幅が変わってしまう事)が生じると、最悪脱線事故に発展する。定期的な手入れが必要な事も特徴で、保線作業の中でも手間(労力)になっている一つだ。国は木製マクラギからコンクリート製マクラギに取り換えるように、各鉄道会社に促している。

↑コンクリート製マクラギの例。昔は高架線や新幹線主体であったが、今や保線作業軽減や維持管理軽減のため、地上を走る在来線でも広く使われている。東海道線等の幹線路線では副本線を除き原則コンクリート製マクラギになっている
★いくら機械化・省力化していても、保線作業員が少ないならば列車本数を減らすしかない

↑JR北海道の釧網本線では、2019年10月から平日昼間の一部列車を運休している。
「線路集中メンテナンス日のバス代行」(JR北海道ホームページ)
↑昼間の一部列車は運休するため、輸送を確保する観点から代行バスで対応している。昼間に列車を運休する理由はJR西日本と同じで、「保線作業をする作業員が減少しているため」だ。JR北海道によれば、昼間に列車を運休する事で、夜間に作業するよりも作業効率が向上(生産性向上)し、マクラギ3000本を木製→コンクリート製に出来ると言う。つまり夜作業するよりも昼間に作業した方が同じ時間でもたくさん作業できるのだ。夜間は灯光器等の照明装置が用意されているが、それでも昼間に比べると細かい所は見えないので、どうしても作業出来る量が減少するのだ。
JR西日本も全く同じ事は「やっている」。但し近畿圏の利用者が多い路線ではなく、近畿圏でも利用者が少ない路線(例えば関西本線加茂~亀山、桜井線=万葉まほろば線など)、山陽・山陰地区に至っては山陽本線等の幹線路線でさえも、昼間に列車を運休して保線作業を実施している。概ね毎月1日程度(毎月同じ曜日・日時に行うとは限らない。また利用が多い7・8月などは月間を通じて1日も行わない事がある)午前10時頃~16時頃にかけて行う。JR北海道と異なるのは代行バスが一切ない事で、この間の輸送手段は完全に絶たれた。利用者にとっては非常に評判が悪く、2010年以降は昼間に列車を運休する事自体を大幅に減らした。昼間に列車を運休する場合はJR北海道のようにバス代行も行うようになった。JR西日本が昼間に列車を運休する理由は、保線作業をする人が少ないのではなく、単に経費削減である。昼間に行うよりも夜間に行う方が経費が高く、利用者が少ない路線では多くの経費をかけたくないのだ。
しかし、今回JR西日本が近畿圏で終電を繰り上げる(早める)理由は大きく異なる。経費削減も本音としてはあろうが、実際の所は表向きであるように「作業する人が少ない」からである。
いくら機械化・省力化が出来ていても、「作業する人が少ない」と作業時間そのものを拡大しないといけない。線路閉鎖(列車が完全に動いていないこと)が絶対条件なので、そうなれば列車本数を減らすしかない
JR京都線、JR神戸線、JR宝塚線、大阪環状線、阪和線等の利用者が多い路線では、「昼間に列車を運休して保線作業を行う」と言う事は絶対的に出来ない。利用者数が閑散路線と比べて桁が違う。そうなると京阪、阪急、阪神、近鉄等の並走する私鉄とも協議して、私鉄側も本数を増やす等の手間をかけることになる。
そうなれば「昼間に列車を運休する」ことはとても現実的ではない。
現実的なのは「深夜時間帯の本数を減らす」しかないのだ
★社会の動きもあるが、最もポイントになるとは「終電接続」
利用者にとっては終電は早いよりも遅い方が良いに決まっている。東京の山手線では昔から
24時間運転してくれ
と言う注文がある。しかし現実には保線作業が出来なくなるため、絶対的に不可能である。終電が早くなれば、「残業が長く出来なくなる」と言うのは世の中の風潮で、それを促進するためにもJR西日本から主導して世の中を変えてしまうべきと私は思うが、深夜に営業する居酒屋、性風俗産業、小売店等にとっては、終電が早くなる=客が帰る時間も早くなるのでその分売り上げ・従業員の給料が減ると言うデメリットがある。
私が思うには、個店の状況を”みなまで”聴くと収拾がつかなくなる。終電が早くなって困る人は自分から交通手段を確保するか、初電で帰れば良いだけの話だ。

↑終電接続が大きなポイントになる。新大阪駅に到着する新幹線は、下り(東京方面から)23:45、上り(博多方面から)23:37である。少なくてもこの時刻よりも早い時刻に終電を発車する事は出来ない。そのため、JR京都線の新大阪駅における終電時刻はどんなに早くても23:55頃である。同線では大阪で阪急、阪神、地下鉄と接続し、これが大阪環状線だと主なものに限れば京橋で京阪と地下鉄、鶴橋と天王寺で近鉄と地下鉄、新今宮で南海と接続する。当然JR線とこれら私鉄を乗り継ぐ客もいるため、これら私鉄の終電時刻も考慮しないといけない。その事を考えれば、大阪市内における終電時刻は早くても24:00前後である。これが神戸市や京都市の駅だと前後してくる。少なくても22時台や23時台前半にする事は出来ないのだ。
★まとめ
私としては終電を繰り上げる(早める)ことは賛成である。鉄道が正常に安全に運転出来るには、保線作業は欠かせない。少ない人数で作業している現状を考えると、人手不足・仕事休みを減らすのであれば、列車本数を減らすと言う所に皺寄せが来ても文句が言えぬ状況なのだ。それと同時に世の中も深夜まで活動するのではなく、早いまでの活動に抑制する時期に来ていると考える。
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