JR北海道と夕張市が石勝線夕張支線の廃止を決めた理由

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JR北海道は2019年3月31日(日)をもって、石勝線夕張支線(新夕張~夕張)を廃止する。開業は1892年と北海道の鉄道では初期の頃に出来た路線で、長い歴史のある鉄道がいよいよ幕を閉じる。なぜ石勝線夕張支線は廃止しないといけないのであろうか?

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★夕張支線は今や典型的な「維持困難線区」

JR北海道は利用不振で自社で管理できない線区を「維持困難線区」と称している。それでも宗谷本線や釧網本線、花咲線のように、いくら利用が少なくても鉄道として残す事が妥当と言う路線も少なくない。営業努力次第では今後客数を増やす事は可能かもしれないが、沿線人口減少となっているため大幅に客数が増加するとは思えない。

例えば、宗谷本線や花咲線はロシアとの国境が近いため、何らかの有事が発生した際に人員、物資輸送はクルマ、船、ヒコーキよりは鉄道の方がはるかに有利なのだ。歴史を見ればわかるが、日本に限らず有事が発生した時に鉄道が活躍。有事が終了した後も、利用そのものは引き続き多いのだ。

釧網本線は観光利用が多い事、さらには根室本線・石北本線との連絡と言う事もあって、「鉄道ネットワーク」で見れば残しておくことが妥当。しかし、それでも利用は少ない。

利用が少ないので廃止出来ないと言うのも現状で、鉄道の廃止=JR北海道に対する社会的責任の失墜も同時抱えることになる。国鉄末期にも北海道では多くの路線が廃止になったが、廃止日を見ていると民営化直前と言う路線も多い。これは民営化後に廃止すると新会社の印象が悪くなるからだ。それでも地元が廃止を認めない等の諸々の事情があって、民営化後に廃止した路線も少なくない。一旦は1995年に路線廃止が終わったと思った北海道であるが・・・

2011年5月に石勝線の特急「スーパーおおぞら」(写真はイメージ。事故の該当車両ではない)で火災事故が発生。それ以降はJR北海道内部における不祥事、函館本線の特急「北斗」で発煙事故等も多発した。この時から安全上欠かせない事についても抑えてきた設備投資について、国からの命令や世間的な要望もあってか、嫌でもやらざるを得なくなった。帳簿上はJR北海道の収支は一応は黒字決算であったが、これをやらざるを得なくなったことにより、一気に赤字決算になって、今や毎年500億円の赤字である。普通の会社ならば倒産していてもおかしくない。

国鉄の時には「営業係数」(100円の運賃を稼ぐのに何円の経費が必要か。100円を超すと赤字である事を示す)を毎年公表していたが、民営化後はJR北海道はもちろん、他のJRも公式には非公表であった。だが、経営が厳しくなったので、それを一般の人にわかりやすくするために、JR北海道は公式に営業係数を公表。

自社管内で黒字路線(営業係数100円以下)はなくて、全てが赤字路線。札幌周辺や特急が多数走る主要幹線は200円以下になっているが、地方路線になると1,000円以上になっている所も多い。

石勝線については、特急が走る南千歳~新得~帯広(実際には根室本線も含まれるが、同区間を列車が一体的に運行されているため、公表数値は南千歳~帯広の”線区”として公表)は159円(2017年度)であった。一方で夕張支線は2,118円(2017年度)と大赤字である。同年度の収入は夕張支線は年間たったの1,000万円。年間の経費は2億円を超える。

輸送密度(1日1キロ平均の利用者数)は特急が走る部分は約3,500人程度あるが、夕張支線はたったの118人。三江線の末期(58人)に比べれば全然多いが、それでも「路線バスで十分」とも言える客数で、路線距離も16キロと路線バスでも代用出来る。

だが、鉄道は容易に廃止出来ない。なぜならば「公共交通機関」で、廃止されれば困る人が絶対に出て来るので、鉄道会社と地元自治体と「合意」が絶対に必要なのだ。鉄道会社も「不採算なので、廃止したら廃止した沿線との縁を切る」と言う事も出来ず、廃止したとしても鉄道会社は廃止後の代替交通に対するノウハウの提供、廃止後に必要な経費も一部出す事が必須となっている。私が知る限りでは、国鉄の時にはこのような事は考えられなかったと思う。国鉄の時には「廃止した路線の地域については縁を切る」。

むしろ、維持困難線区に指定されて今後廃止予定の路線がある自治体に言わせれば、「JRから廃止後もらう経費を1円でも多くするか?」が至上命題になっていたりする。このような事は2018年3月31日に廃止された三江線沿線でも言えた。

これは「廃止後のカネの問題」。カネ云々ではなくて、「わが町のシンボルが鉄道!利用が少なくても鉄道がないのは困る!利用が少なくても鉄道の廃止は断固反対!!」と言う町もも少なくない。それが日高本線の日高地区の沿線、留萌本線の沿線である。今の所(2019年2月)JRとの交渉がまとまっていない。むしろ、日高本線に関しては「バス転換はありえない」と言う考えだ。

札沼線非電化(北海道医療大学~新十津川)についても、廃止議論は沿線自治体とJRの間でモメた。最終的にはやはり「廃止後の代替交通についてJRからしっかり支援してもらう」事を条件に、沿線の町が全て廃止について合意。札沼線非電化は2020年5月6日で廃止する事になった。

すなわち、ポイントは「沿線自治体から廃止して良い合意が取れるか」である。この合意なしには廃止はありえないのだ。

沿線自治体の数が多ければ多いほど、廃止合意取り付けは難しくなる。日高本線沿線は7つの町があるので、7つの町それぞれの思惑もあって、決まった結論が出せない傾向もある。一方で沿線自治体の数が1つしかないと、その自治体だけが合意すれば、廃止できるので、ある意味鉄道会社にとっては都合が良い。それが夕張市である。

★夕張市の現状に鉄道は合っていない?「攻めの廃線」を決めた夕張市の狙いは?

↑石勝線夕張支線は特急停車駅の新夕張駅から、夕張市の人口が多い地域を通り、市役所近くの夕張駅までの約16キロの路線である。新夕張駅は紅葉山地区と言って夕張市役所からは遠く、「街外れ」と言う感があるが、周辺人口はそれなりに多い。それ以外には南清水沢駅、清水沢駅付近の清水沢地区、鹿ノ谷駅、夕張駅の本町地区も人口が多いが、今後はこの3地区に人口を集約させたい方針だ。

JR北海道は、「維持困難線区」として公表する前に夕張支線も「廃止対象」としてリストアップされる事がわかった。2016年8月、当時の夕張市長鈴木直道氏がJR北海道の島田社長と会談。この中で、「JR北海道から人的・金銭的な支援を夕張市に受ける」、「夕張支線の土地を無償譲渡する事」、「市内交通網の見直しに協力する事」を条件に、鈴木氏が自らJR北海道に対して「夕張支線を廃止してくれ」と要求。そのまま廃止が決定してしまった。自治体側が鉄道の廃止を要求し、そのまま廃止が決定するケースは前代未聞と言える。

鈴木氏は「廃線を待つのではなく、”攻めの廃線”を提案した。市民の足を守る事を第一にしたい」と語った。

一見すると矛盾したように見えるかもしれない。鉄道廃線≠市民の足守るはイコールではないかと。

しかし、数時間に1本しかない鉄道を公共交通として活用するには、あまりにも不便だ。最低でも1時間に1本、出来れば30分に1本は本数がないと使ってもらえない。鉄道は単行の車両でも1本あたり100人程度は輸送できる。夕張支線の現状は1本に100人もお客が集まる事はなくて(2019年2月時点では廃線直前の”葬式鉄”が殺到しているためそうとは言えないが)、1本あたり良くて20人程度であろう。これも三江線の末期に比べれば良い方であるが、鉄道が必要な客数としては足りない。

夕張市(石勝線夕張支線沿線)を歩くとわかるが、意外とアップダウンが激しい。登ったり下ったりする所が多く、歩いて移動すると大変だ。清水沢~鹿ノ谷は峠越えでこの区間は駅間も長くなる。夕張駅を下車して市役所方面に向かった場合も登り坂だったりする。夕張支線だけで夕張市内を移動となると、それなりに体力がないと厳しい街なのかもしれない。

後日のブログにも書くが、夕張市民が移動手段として重宝するのは夕張鉄道の路線バス。2018年9月に行った時に、南清水沢駅から5人も乗ってきた。下車は夕張市内各地で、特定のバス停で極端に下車が多いわけではない。数か所のバス停で1人ずつパラパラ降りる程度の客数しか居ないが、地形的な事や人々の移動実態を考えれば、夕張市内の公共交通は鉄道よりは路線バスが即しているのだ。

ただ単に「市民の移動」であれば、夕張支線は不要。都市間移動は石勝線の特急に任せれば良いし、夕張市内の新夕張駅も特急停車駅なのだから、遠方からの集客が大きく不利になる事もないだろう。夕張支線を廃止して、路線バスを充実させて、バスが通る沿線に市民が集まる新しい施設を作って、人口もバス沿線に集中させる。

いわゆる「限界集落」を多数作ってしまう結果にはなるが、バラバラになった地域にわずかの市民が住み、そこの市民は高齢者となって、クルマが運転出来ない、バスがない、となれば生活できない、買い物にも行けない、病気になったら助けにも来れないとなれば、それはデメリットしかない。

人口減少の夕張市は遂に人口1万人を切った。”倒産した市”の夕張に対して、若い人が遠くから人が集まる様子もない。遠くから人を呼び込むのではなくて、今いる市民が「いかに満足してもらうか」と言う答えを考えた時に、住む場所を市内3か所に集約して行政コストをさらに削減する。そこに販売店を作る、人々が交流できる施設、バスターミナルを作る等して、夕張市全体をコンパクトにする。そうすると、「大きな地区同士の移動しか出来ない」鉄道はどうしても不利になる。「小さな地区同士の移動」となれば、バスか路面電車であるが、後者は設備投資額が大きすぎるので夕張では出来ない。選択肢はバスだけとなる。

乱暴な議論・結論なのかもしれないが、今後夕張市が描く将来像、夕張市のあり方を考えると、夕張支線と言う財産はJR北海道と言う民間会社のものではあるが、今後維持困難線区に対して金銭支援を要求するのは確実。金銭支援出来ない事情もあるが、カネよりも夕張市の未来像と夕張支線の存在が合致しなくなった・・・「だから、夕張支線は廃止で良い」となったのではないか?と私は考える。

鈴木氏の意図や夕張市公式には、別の見解をお示しになるのかもしれないが、実際に現場に行ってみても「鉄道を廃止してくれ」と自治体側が自ら言いたくなる理由もわかってきた。

★最後に

石勝線夕張支線の最終運転日は2019年3月31日(日)である。全国から鉄道ファンが集結するのは確実で、今の所は昨年廃止になった三江線ほどの過熱感はないが、廃止日が近づけば近づくほど過熱感も増すだろう。

私としても、3月30日(土)~4月1日(月)にかけて、最後に夕張支線に乗って、撮って、見てみて、「夕張市の決意」とも言える夕張支線の最後の姿を見たいと思っている。さらに、廃止後の4月1日から運行する代替バスも試して、新たな夕張市の交通がどうなるのか?も見届けたい。

次回以降(2019年3月3日以降の予定)、2018年9月に夕張支線に乗った模様を書く。


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KH8000

普段当たり前のように乗っている鉄道、バス、クルマは、意外と深い所まで知らない人が多いのではなかろうか? 例えば「何で大雨が降ると電車が止まってしまうのか?JRは簡単に止まるのに、私鉄が止まらない!その差は何か?」と素朴に感じるみなさんが知りたい”今話題のネタ”を、テレビ・新聞・SNSよりも詳しく、わかりやすく、深くしゃべり倒す!

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