【ケルヒャーの高圧洗浄機が大活躍?!】なぜ東海道新幹線は雪が降ると徐行運転するのか?

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2018年12月29日(土)、世間はふるさとへの帰省、年末年始旅行で鉄道、ヒコーキ、道路が混雑した。この日は今冬最大の”冬将軍”が日本に襲来し北海道から西日本にかけて大雪となった。一般に太平洋ベルトと称する東京~名古屋~大阪にかけての地帯は雪が降る事はあまりない。

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だが、東海道新幹線が通る岐阜県の関ヶ原から滋賀県の米原付近にかけては雪による徐行運転を実施。多客や急病人発生も重なり、上り東京着の場面で約30~40分の遅れが発生。写真は2015年1月3日に撮影したものであるが、雪のため徐行運転を実施。米原駅のホームの端は除雪されず、かなり積もっていた。

一方で東北・上越・北陸新幹線では、元々から雪の対策が出来ており、在来線を通る山形・秋田新幹線を除けば雪による大きな遅れは発生していない。最近毎年のようにあるが、上越線の越後湯沢周辺が大雪で何日も運休しているのに、並行する上越新幹線は運休が1本も発生しないどころか、定刻通りの運行。

一体これらの”差”は何なのであろうか?「鉄道ジャーナル2017年4月号」に興味深い記事があったので、これを参考に引用する形で、東海道新幹線関ヶ原・米原地区の雪害対策によるJR東海の取り組みをわかりやすく説明する。

★東海道新幹線開業時の国鉄の考え方が甘かった

東海道新幹線は1964年に開業。当時の国鉄が1964年の東京五輪に間に合わせる形で工期たったの5年で完成させた。当時から関ヶ原・米原地区では降雪はあったが・・・

「積もってもラッセルをかければ、何も問題ない」

と考えていた。つまり在来線のように雪が積もったらラッセル車を出動させて除雪すれば良いと。しかしこれが甘かった。

その結果は悲惨なものであった。1965年1月、開業から3か月を経た中で初めて「関ヶ原の雪」を経験した0系は、「戦場を走ってきたのか?」と思われるほど満身創痍となり、特に床下の主要機器やケーブル類が激しい損傷を受ける中で、自走不能に陥ったばかりか電源が全て落ちて暖房も止まると言う事態となったのである。

問題はバラスト(砕石)の巻き上げだった。210キロと言う当時としては未経験の高速走行を行う中で吹き上げられた雪は車両下部に付着し、走行風による気化冷却で凍結する。その氷が、暖かいトンネル内などに入ると落下してバラストを巻き上げるのである。

事態を把握した当時の技術者たちは、徐行を指示して運行を再開するとともに現場へ急行した。

例えば米原駅を車両が通過する際には巻き上げられたバラストが飛散し、ホーム上にまで到達すると言う惨状であった。これを受けて緊急措置として減速を指示したのである。

「鉄道ジャーナル2017年4月号”東海道新幹線半世紀にわたる雪との闘い”」(以下同文献とする)より25~26ページの内容を引用

車両が0系→100系→300系→500系→700系→N700系→N700Advance・・・と進化する過程であっても、車両側が出来る雪への対応は基本的に変わっていない。では雪対策がしっかりできているJR東日本のE5系やE7系を使えば関ヶ原・米原地区の雪を克服できるのか?と言うとそうではない。

関ヶ原・米原地区の雪の根本的な原因は線路構造にあるのだ。

簡単に説明すると、バラスト軌道(砂利を敷いた線路)では積雪になると気温が上昇しない限り完全に消雪する事が出来ない。前述のように列車が走行すれば風が発生するわけで、その風によって急激に冷やされて、それが「塊」になって車体の損傷、窓ガラスを割る事故に発展する。

JR西日本の北陸本線の特急停車駅では交換用の窓ガラスが用意されていると言う。これは「サンダーバード」等の特急でも時々「塊」になった雪が原因で窓ガラスを割る事故が起きているためだ。交換用の窓ガラスはあくまでも応急用で、とりあえず割れた部分を塞ぎ、処置が終了すると本来の目的地まで運行。その後車庫に入って本格的な修理となる。

そのため特急が運休になったり、使用車両の変更もあって、2011年3月に直江津→越後湯沢で「はくたか」(在来線特急時代)に乗った時に、681系となるはずが489系に急きょ変更した事もあった。

走行中に新幹線の窓ガラスが割れる事は考えにくいが、ヒビが入る程度の事はあり得る。今や285km/hで走行するので窓ガラスが割れると大変な事になるので、安全のため速度を落としている。東海道新幹線では80~170km/h程度で徐行する。速度はその時の降雪・積雪状況により異なる。

一方で東北・上越・北陸・北海道新幹線は「雪に強い」とされる。これらは線路がスラブ軌道(敷石がなくコンクリート+レールだけ)となっているため。このタイプの線路では完璧な消雪が可能で、特に北陸ではそれをやる事が大前提の線路構造になっている。細かく見ると、消雪した雪は水になるので地上に流す必要がある。排水溝が東海道以上に無数に設置されているため、排雪能力が極めて高い。

東海道では雪ではなく雨による影響も受けやすい路線で、在来線よりも基準は高いがそれでも1時間に60ミリも雨が降れば運転見合わせになる。東北・上越・北陸・北海道ではそもそも雨による運転基準が存在せず、極端な話1時間に80ミリの雨が降っても理論上は運転継続が可能になっている。だが実際には視界不良等により運転が難しくなるため、ゲリラ豪雨ともなればやはり運転見合わせになる。

★完全消雪は出来ない!積雪量を少なくする事を目標としている

前述のようにバラスト軌道では完璧に消雪する事が出来ない。東海道新幹線に乗ればわかるが、積雪となると車内からもスプリンクラーから大量に水を”新幹線にぶっかける”事がおわかりになろう。

濡れ雪化対策は、比較的に早期に見つかった。それは水を撒くと言う方法だ。その原型は、「散水車を走らせる」と言う対策だ。これは、1966年から78年にかけて実施されたもので、文字通り水タンクを積んだ車両を散水しながら走行して積雪を融かすと言う方法だ。試験的に行ったこの散水が一定の成果を見たことを踏まえて、比較的早い時期にスプリンクラー設置と言う本格対策が進められる事になる。

だが、ここで大きな問題が持ち上がった。盛土の路盤にバラストを持ってバラストを持って建設されていた事だ。あまりに盛大に散水を行うと盛土の強度に問題が出る。最悪の場合は、路盤が流出すると言う事にもなりかねない。

(中略)スプリンクラーの設置場所であるが、基本的に全ての上り線側、つまり北西側に設置されている。これは季節風と降雪が密接に関係するためで、要するにこの地域では降雪見られる時は必ず北西風が吹くと言う現実に基づいている。

同文献、26~27ページから

上越新幹線の越後湯沢付近はタップリと温水を”新幹線にぶっかける”が、これと同じ事を東海道新幹線でやってしまうと、最悪は線路を壊す事になるのでそういう事が出来ない。

そのため、散水して積雪量を出来る限り少なくする事を最大の目標としている。最初から消雪が出来るとは思っていないので、消雪する事は目標としていないのだ。

★車両側に付着した雪は完全消雪が目標!今でも「人海作戦による雪落とし」を小田原、名古屋、新大阪等で実施!

スプリンクラーによる消雪はあくまでも線路側の対策。車両に付着した雪はスプリンクラーだけでは消雪できない。前述のように関ヶ原・米原地区の積雪を完全消雪する事を目標とはしていないが、逆に車両側に付着した雪は完全消雪を目標としている。

雪の日、名古屋駅の停車時間が定刻よりも長い事がある。ホームの下(線路際)を見ると、オレンジの服とオレンジのヘルメットを着用した作業員が何人もいる姿を見た事ないだろうか?

この作業員は新幹線に付着した雪を完全に消雪させる部隊なのだ。

仮に少しでも新幹線の床下(車輪等がある所)に雪が付着すると、走行風により冷却されるため雪が「塊」に化けて、本来雪が全く降らない静岡県内を走行中に、雪が直接的な原因で事故や輸送障害が起りかねないためだ。JR東海、JR西日本の両社は床下に少しでも雪が付着した状態で285km/hや300km/h走行は安全を認める事が出来ないため、走行させる事が出来ない。

では、どうやって雪を除去するのか?と言うと、まさに人海作戦だ。とは言っても新幹線は高圧電気の集合体なので、少し近づいただけでも感電する可能性があるため非常に危険。原則として天井は作業対象にはなっていない。作業対象は足回り(車輪)付近に限定。

方法としては直接足回りに”水をぶっかける”

家庭用の高圧洗浄機で有名なあの!「ケルヒャー」のそれを使う。高圧洗浄機は文字通り水圧が非常に強く、バケツから水をぶっかけるのとは大違いだ。雪の付着量にもよるが、少なければあっという間に取れてしまう。

「ケルヒャー」部隊は小田原、名古屋、新大阪に配置されており、小田原は首都圏で雪が降った場合下りの全列車が対象。本来通過の「のぞみ」も運転停車させて、「ケルヒャー」で雪落としを行う。名古屋は逆に関ヶ原・米原地区を通ってきた上りの全列車が対象。新大阪は関ヶ原・米原地区を通ってきた下りの全列車が対象だ。

なお、雪の状況により「ケルヒャー」部隊の登場が岐阜羽島や豊橋に変わる事もある。2018年12月29日は、名古屋地区で降雪があったため、雪による徐行規制がなくなる豊橋以東では「雪を付着した列車は入線させない」と言う目的で、豊橋に全列車を停車させて(のぞみは運転停車)、雪の除去を実施したと言う。「ケルヒャー」部隊の登場場所や人員には基準があって・・・

その人海戦術だが、状況に応じて最大の体制「レベル5」から「レベル1」まで5段階を設けており、レベル5になると常時60名が出動する。

「同文献」27ページ

「ケルヒャー」部隊の最大の使命は、「新幹線の床下に付着した雪を完全消雪させること」である。

★ブラシ車とラッセル車もあるが、稼働できる時間が短い

新幹線にもラッセル車は存在する。JR東海ではそれ以外にもブラシ車も搭載。

ブラシ車と言うのは、大きな回転ブラシを「車輪とは逆方向に」回転させて、雪を「掃き上げて」「飛ばす」と言う機構を備えた除雪車の事だ。

「同文献」28ページ

関ヶ原・米原地区ではブラシ車の配置がメイン。古いタイプは方運転台しかなく、ある晩に米原から岐阜羽島に向けて除雪を開始すると、1晩でたどり着けるのは岐阜羽島まで。次の晩に岐阜羽島から米原に戻る事になるため、効率的な除雪が出来なかった。そこで新型は両運転台に変更し、1晩で往復できるようになった。

「1晩」とか「ある晩」と表現したが、新幹線は法律により6~24時は人やブラシ車やラッセル車と言った工務用車両も立ち入る事が禁止されている。細かく言うと工務用車両が止まっている置き場と本線を仕切る頑丈の柵を開ける事さえも禁止だ。在来線では列車と列車の合間があれば昼間でもラッセル車による除雪は可能になっているが、新幹線ではそれが認められていない。そのため新幹線でラッセル車が本線を除雪出来るのは、どんなに長くても0~6時に限定。実際には置き場から本線までの移動時間があるので、実質的には4時間程度が限界だ。

基本的にはブラシ車で除雪する。気象庁から毎日11時と16時に詳細な降雪情報をJR東海が受け取り、11センチ未満であればブラシ車のみの運用、11~25センチはラッセル車+ブラシ車の両方を運用、25センチ以上はラッセル車のみとなる。(その時の降雪状況により必ずしもこのように運用するとは限らない)

★雪に悩まされても、1994年以降雪による運休は1本も出ていない!

関ヶ原・米原地区の雪による新幹線の遅れは、”冬の恒例行事”となっているが、では運休列車も出ているのでは・・・と思うだろう。

ナント!1994年以降、雪による運休は1本も出ていない!

これは称賛するべき事であろう。ヒコーキや高速バスならば、雪が降っただけで運休が多発するのに、東海道新幹線ではそれが1本も出ていないのは、スゴイ!

しかしこの事実を知る人は意外と少ない。「雪で新幹線が遅れるとは何事だ!」と言うのが世間の考えである。だが、雪への対策はJR東海は万全にやっているので、これは最初からバラスト軌道にしなければ良かったのである。

一部は「スラブ軌道に変えろ!」と言う意見もあるが、これはとても現実的ではない。単に線路からバラストを撤去しただけでは済まない。レールの構造、諸々の構造物も全てを変更しないといけないのだ。そうなれば工事だけで数年。運行しながらの工事は非常に難しく、数年単位で東海道新幹線を運休させないといけない。リニア中央新幹線が出来れば、それは出来るのかもしれないが、とても現実的ではない。

★まとめ

東海道新幹線が雪による徐行運転を実施する理由がお分かりになったであろうか?

元々の線路構造が雪に強くないため、どうしても徐行運転を実施する事が必要になるのだ。JR東海も毎年12~3月にかけて関ヶ原・米原地区の雪害対策に万全を期しており、毎年わずかながらの新技術を投入して雪と闘っている事を知っておくべきだ。

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KH8000

普段当たり前のように乗っている鉄道、バス、クルマは、意外と深い所まで知らない人が多いのではなかろうか? 例えば「何で大雨が降ると電車が止まってしまうのか?JRは簡単に止まるのに、私鉄が止まらない!その差は何か?」と素朴に感じるみなさんが知りたい”今話題のネタ”を、テレビ・新聞・SNSよりも詳しく、わかりやすく、深くしゃべり倒す!

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